画家が今日もいつもの川岸で絵を描いていたところ、すぐ目の前の橋の上を、美しい少女が通りかかった。
 森を散歩するには不釣り合いな赤いドレスを着た少女は、脇目もふらずにトコトコテクテクと、村がある方角へと歩いていった。いったい何をそんなに急いでいるのだろうか。
 どこかの国からお忍びでやってきたかのような高貴ないでたちの姿だったが、それにしてはお付きの人間も連れておらず、たったひとりで森を歩いている光景は、やや異様なものだった。このあたりはオバケもうろうろと漂っている。襲われたりしなければいいのだが。もしくは、あのような上品な姿で実は拳法が得意だったりするのかもしれない。明らかに動きづらそうなドレスを着ていながら、明らかに筋肉なんてついていなさそうに見える細腕で華麗に闘ってしまったりするのかもしれない。よくあるマンガの登場キャラのように。


 その少女が通り過ぎてから数時間ほど経った昼下がりに、今度は3人組の集団が同じ場所を通りかかった。
 そのうち一人・・・・いやよく見ると全員が画家には見覚えがあった。彼らは川岸で絵を描く自分の姿を認めると、こちらに向かって挨拶をした。

 

「やあ、放浪画家君!いやーまさかまだそこにいるとは思わなかったな。調子はいかがかな?」

「ああ、おかげさまで。」

「え、ちょっとハカセ。あの人と知り合いなの?」

 

 一人は、この川岸に腰を据えようと決めるきっかけとなった学者だった。そしてもう一人は、パンの耳をくれた男の子。そしてあと一人は、その彼がパンの耳をくれてから別れたあとすぐに、橋の上でオバケに囲まれてしまっていたところ、勇者よろしくサッソウと現れては彼を助け出した女性だった。ピンクの日傘が印象的だったからよく覚えている。ちなみに画家はその一部始終をまるまる見ていた。
 ・・・・なぜあの3人が、今、行動をともにしているのだろう。明らかに関係が結びつきそうにない歳・風貌・性別・職種の人々が、まるで昔馴染みであるかのように肩を揃えて並んでいる様子は、おそらく誰が見ても不可解な光景であることは確かだ。暫く顔を見なかった間に、彼らの間に一体どのような巡り合わせが起きたというのか、画家には全くわからなかった。

 

「驚いたな。君は思った以上にタマネギの貴重な修羅場シーンに大きな感銘を受けていたようだ。・・・・ふふふ。どうかね、一緒にウサギの耳研究をやってみない?私の優秀な弟子になれるかも。」

「すまないが遠慮するよ。ボクは一介の画家だから。」

「残念だなあ。絵が上手なのは私としてもありがたいのだが。」

「・・・・え。ホント、どういう関係なのかしら、このヒト。タマネギの修羅場ってなによ。この人もそういうシュミなの?」

 

 女性がやや距離を置きたげなしかめ面で、画家と学者を見比べた。画家は思う。彼と同じ人種と見られるのは困る。
 学者はさておき、相変わらず存在感が薄く見える少年の方にも挨拶する。

 

「そうだ、きみ。あのときはパンの耳をありがとう。あの絵筆は、少しはきみの役に立ったかな?」

「ええと・・・・ああ、はい。思ったより・・・・いや、えーと、ずいぶん役に立ちました。」

「そうかい。ならよかったよ。」

 

 また何か言い淀みながらも肯定する少年に、画家は素直に喜んだ。
 彼はあの使い古しの絵筆がめぐりめぐって、いつの間にかペンライトになってしまったことを知らない。

 

「そういえば君、このあたりで王女様を見かけなかったかな?」

「・・・・。は?」

「王女様だよ。おーじょさま。王様のご息女のあの王女。なんか家出しちゃったみたいで。」

 

 学者キスリングがいなくなった猫を探しているかのような軽い調子でさらりと尋ねてきた衝撃的内容に、画家は目を白黒させた。
 王女様。王女様って・・・・結構すごい人じゃないのか?家出ってなんだ。

 

「・・・・王女様がこの近くに来ているのかい?」

「たぶん。リシェロやマドリルには探してもいなかったから、おそらくテネル村の方へ行ったんじゃないかと推測しているんだ。君がずっとこの川辺にいたのなら、見かけたんじゃないかね。絶対に目立つ風貌だとは思うのだけど。」

 

 そう言われて、画家は即座に思い当たった。数時間前に橋を通りかかった、よく目立つ美少女。彼女はもしかしなくとも、王女様だったのでは。見るからに王女様と呼べそうな・・・・オバケが闊歩する森を歩くには不相応な服装と、実はちょっぴりものすごく世間知らずかもしれなさそうなお顔立ちであった。

 

「ああ、うん。たぶん見かけたよ。彼女はまっすぐ、テネルの方へ歩いていったな。」

「本当に!?あー、よかった。これでお付きのオジサンにもいい知らせが持って帰れるわ・・・・。」

 

「・・・・・・・・ふん、ポイント稼ぎ狙いか。肩書きばかりクサレ勇者のイイ証拠だな。」

 

「おだまり肩書きの紙面魔王。」

 

 女性は王女の行方がわかり嬉しそうな笑顔のまま、威圧するような低い声で素早く何かを黙らせた。
 ・・・・なんだかまたその場にはいない第三者の声が彼らの方から聞こえた気がしたが、やっぱり気のせいだろう。

 家出王女を探し求めて、頭が爆発気味の学者・地味すぎる少年・ピンクの日傘の女性というよくわからない3人組は、画家に別れを告げてテネル村の方へと去っていった。・・・・あの珍奇な風貌の彼らと、この国の王女様。この両者の間にいったいどういう関係があるというのか、やはり画家には全くわからない。
 画家は世界は奇妙で驚異に満ちていると考えているが、その中でもひときわ奇妙だと思ったのは彼らであった。いずれはあの3人に、あの派手なドレスの王女様までもが加わるのかもしれない。そうなったわけのわからない4人衆がぞろぞろと連れだって森の中を歩く光景を、ちょっと見てみたい気がした。

 

 

そして翌日、本当にわけがわからなくなった4人組の一団が再び橋を渡るのを画家は目撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、この森にはときどき、むかつく旅人が出没する。
 ところかまわず誰であろうと一見気さくに話しかけてくる彼のむかつく言動に翻弄され、歯ぎしりをしながら森を去っていく哀れな勇者の後ろ姿を、これまでも画家は幾度も目撃している。自分で旅人と名のってはいるが、おそらくウソだろう。旅人の装いをして重要な情報を与えるフリをしながら道行く人をからかうことが趣味のただの外道である。
 旅の画家である彼も、何度かこの男と話をしたことがある。画家も彼に出会ってはじめの頃は、彼の言葉にうっかり真剣に耳を傾けてしまい、数秒後にバカにされて慇懃無礼にけなされるという屈辱を味わった。しかし最近は彼と同じ活動場所の森の中にいる以上、ときに旅人の方から退屈しのぎの話し相手とすべく話しかけてくることが多い。

 

「やあ、きみは今日もそこにいたんだね。知ってたよ。ぼくの正体はこの森のきれいな蝶だから。きみは知ってた?今きみのまわりに飛んでる蝶。彼らはぼくの友達なんだよ。あははははは。もちろん知らないよね。だってこれ冗談だし。あははははははははは。」

 

 笑いながらむかつく旅人は川岸まで降りてきた。
 画家自身はもとよりマイペースな人種であるために、いくら彼の言葉がむかつくものであろうともほとんど感情を動かすことはなく、おもしろラジオ番組の一環のようなものとして右から左へ巧みに流す術を身につけていた。最近ではそのやりとりにも大分慣れてきたところである。
 旅人自身は特に目立った悪さをするわけでもない。言動がただひたすらにむかつくだけで。

 

「ねえねえ。今日はとっておきの情報があるんだよね。単純なきみにぼくが親切に教えてあげようか。本当にとっておきだよ。聞くだけソンしないと思うよ。どうせぼくたち、時間ならたくさんあるからいいよね。ぼくは毎日旅をしてるだけだし、きみは毎日絵を描いてるだけだし。あ、ごめん、気を悪くした?あははははは。冗談だよ。単純だなあきみは相変わらず。」

「あー、どうぞどうぞ。半分だけ聞いててあげるから好きに話してどうぞ。」

「半分聞くんだ?片方の耳だけで聞くってこと?もう一方の耳はどうしたのさ。ポケットにしまっとくの?器用だねきみは。そんな器用なマネ、ぼくにはとてもできないなあ。さすが画家さんだね。まあ関係ないけど。あははははは。」

 

・・・・・・・・もしも人一倍短気な人物がこの会話に付き合わされたとしたら、目の前の彼はおそらく殺されているだろう。

 

「そんなことはとりあえずどうでもいいや。せっかくだからこれを見せてあげよう。」

 

 むかつく旅人が薄汚れた風呂敷から、一枚の画用紙を取り出した。そこには子どもが描いたラクガキのような図形の地図が描かれている。
 彼の言葉には耳を傾けないつもりでああったが、そのように目の前に絵を広げられると、誰であろうとつい目を向けてしまうのではないかと思う。画家は真面目に聞かないつもりで、遊ばれる覚悟を以てして彼の持っている地図を見た。

 

「・・・・湖?」

「そうさ。よくわかったね。リシェロの湖だよ。うまく描けてるだろう?ぼくが描いたんだ。あははははは。」

「・・・・あ、ああ。・・・・まあ、描けてるんじゃないかな・・・・。」

「あー、今、ウソついたよね。どう見てもこれがうまく描けてるわけないじゃないか。子どものラクガキみたいで、へったくそだよねえ。ウソついたんじゃないなら、きみの目はほんとに単純だね。画家なのにものを見る目がないんだね。あははははは。」

 

・・・・彼にお世辞は二度と言うまいと画家は心に誓った。

 

「単純なきみに、ひとついいことを教えてあげよう。とても重要なことだよ。きみはぼくと同じ旅人だから、もう知ってるかもしれないけどね。でも、きっと知らないと思うよ。なぜならぼくだけが知ってることだから。」

「さいですか。」

「・・・・このリシェロの湖。この湖のむこう側には、実は大きな秘密があるんだよ。」

 

 むかつく旅人は大げさに声をひそめてささやきながら、ぽんと誇らしげに、自分で作ったへたくそな地図を指で叩いた。その仕草さえなんだか憎たらしい。
 彼は画家の内心を察知していないようで察知しているのだろうが、それでも察知していないフリをしている顔で紙面をなぞり、リシェロの湖の図の、自分たちが住んでいる陸とは反対側の岸を指差した。

 

「はい、それはなにかといいますと。リシェロの湖のむこうにはもっと大きな湖があって、そこにはステキな財宝があるんだ。すばらしいだろう?」

「・・・・はあ?」

 

 画家はキャンバスに置いた筆を止めたまま、一瞬呆けてしまった。
 ―――リシェロの湖の対岸に何があるかなんて、画家は考えてみたこともなかったからである。

 

「ナイショだよ。まあ誰にでも言いふらしてるんだけど。あはははは。」

「本当か?」

「ウソだよもちろん。ウソに決まってるじゃないか。」

 

 思わず画家は絵の具のついた筆を彼の顔面に向かってぶん投げそうになった。
 むかつく旅人は悪意など全くないような明るく爽やかな笑顔で、悪意に満ち溢れているようにしか聞こえないどす黒い悪行について語った。

 

「先日会った引っ越し好きの「越しマー」さんに親切にこのことを教えてあげたら、喜び勇んで荷物まとめてリシェロの方へ旅立っていっちゃったよ。あははははは。どこへ行くつもりなんだろうね。ウソなのにね。あははははは。あはははははははははは。」

「このくされ外道・・・・。」

「えー、だって冷静に考えてみればわかることでしょ。だいたい湖のむこう側にそんな簡単に行けるわけないじゃん。船が出ているわけでもなし。人が通っているわけでもなし。大体あのむこうに何か見えたことある?ないよね。それだけ対岸が遠いわけだから、むこう側なんてないも同然なんだよ。あんなでっかい湖を渡ってなんかイイコトがあるってんなら、とうの昔に世界を攻略したエラい誰かが船通わせてるっつーの。ホント単純だよねえきみたちは。あははははは。」

 

 そういえば確かに、湖は漁船や水の遺跡への渡し船はあっても、湖を横断するための船は一切出ていない。人件費も渡航の運営費もかかるわけなので、その必要がないなら出さないと言ってしまえばそれまでだが、今必要がなくてもないなりに、いずれ湖を渡る船を備えたほうがいいのではないか。他の町、村、あるいは王都との交流。山や森の生態系の研究の一環。国を巡る旅行。資源の調達。湖の対岸へ向かう必要性ならいくらでも思いつく。
 しかし人々はみな、わざわざ湖を船で渡ろうとは思わないようだ。この国の貿易は、普段はもっと利便性の高いルートを通じて行われているのだろう。湖を船で渡らずとも陸地を結ぶ鉄道があるのだから、人がそちらを用いるのは当然か。―――では、列車に乗っていけば、湖のむこうに行けるのか。
 自分が列車をこれまで利用しようと思わなかったのは、鉄道が長らく止まっているからだ。
 鉄道は今はまだ使えない。・・・・・・・・今は、まだ。
 だから仕方がないのだ。はっきりしないことがはっきりしないままでも、今のところ確認のしようがない。いずれ鉄道が使えるようになったあとにでも確認しに行けばいいことだ。
 それに実際、この男の言うとおりかもしれない。対岸にわざわざ船を出してまで渡ったその先に有意義な何かがあったとして、そんな場所があるのならもっと湖面の交通の便はよくなっているはずだ。いやこの時代、もはや国を巡る交通網は十分発達していると言っていい。現代は、中世の鎖国時代のような古臭いご時世ではないのだ。

 しかしそのとき、不意に画家は、この川辺に腰を据えるきっかけとなった、かの学者のことを思い出した。
 あのどこにでも行ける自由な風に似た学者が、口にしていたこと。

 

―――学問の発達は、日陰に対して疑問を抱くことから始まる。自ら見ようと思わなければ見えない風景、映ることのない色があるんだ。

―――・・・・自らの認識の外の物事なんて、一生懸命見なければ見えないものさ。

 

 

 

 

「・・・・・・・・いや。でも・・・・ただ誰も、気にしたことがないだけだとしたら?湖のむこうのこと。誰もが知っているつもりになっていて、本当は何も見ようとしていないんだとしたら?

 ・・・・・・・・。そうだとしたら・・・・もしかしたら本当に、湖のむこうにもっと大きな湖があって、財宝があったりして・・・・・・・・」

 

「バカだなあきみは。本当におめでたいバカだなあ。世界で一番の幸せ者だよ。あはははは。うらやましいなあ。あははははは。見えないものを信じるの?ぼくのホラ話だって言ったじゃん。ウソをウソだと知っておきながら信じちゃうわけ?きみって幽霊とかサンタさんとか妖精さんとか信じちゃう系?お花畑で暮らしてるんだねえ。あはは。」

「そもそも、なぜみんなあの大きな水たまりが、湖だと思っている?もしかしたら・・・・そう。海かもしれないのに?湖ならば、陸地沿いに歩いていけばいずれむこう側に着けるじゃないか。勇者や旅人はいつだって歩いて旅をするものだ。陸続きの湖だって知っているくせに、なのに、誰もその先に歩いていかない。もしかしたら、その先にも悪い魔王がいるかもしれないのに。」

「あはははは。あははははははははは。やっぱり立派なバカだなあ。誇っていいと思うよ。ぼくは。そんなの、水をなめてみればわかることじゃないか。むこう側に行く必要がないのは、むこう側にわざわざ行くだけの価値がないからさ。財宝なんてウソだよ。むこう側には村も町もないし、とくに資源になるようなものもないんだよ。なんにもないんだって。なんにもないところに、魔王がいるはずもないでしょ。支配するメリットがないじゃんか。
 ・・・・それともきみ、海や財宝に憧れてたりする?大航海時代でもない今のご時世に、画家業やめて海賊王になりたかったとか?それとも魔王を倒す勇者に転職かい?今どき勇者なんていくらでもいるのに?まあ、どっちにしろ、きみはヒマなんだね。あはははははははははははは、・・・・っげふんっげふうっ。」

「そうじゃないよ。そうじゃない。ただ・・・・ずっと考えてもみなかったから。見ようとしてこなかった風景のこと。見えてない、気づいていないだけで、本当は・・・・・・・・」

「いいよいいよ。ネタにたいしてマジメに返さなくていいの。ね?キラわれちゃうよ。ぼくみたいにさ。あははははは。自分で言うことじゃないよね。あはははははははははは。それにもうぼくもあきた。」

 

 笑いながら旅人は、その空想の地図を簡単にくしゃくしゃに丸めてしまった。わざわざ自分で作ったくせに、その嘘に対するこだわりは全くないらしい。嘘も空想も所詮は消費物か。
 本当に飽きてしまったらしい旅人は、退屈しのぎは終わったとばかりにさっさと川岸を後にしようとする。まだその場所に変わらず腰を据え続ける放浪の画家を、彼は橋の上から見下ろしてまた嗤った。

 

「知らなくてもいいこともあるんだよ。知る必要のない、どーでもいいようなことがさ。湖のむこうがどうなっていようと、ぼくもきみもこっち側で暮らしてるんだから関係ないじゃん。ほらさ、知らなくても別に、こうやって生きていけるんだし。そう思わない?」

「・・・・・・・・生きているから気になったんだ。・・・・ボクは。」

「単純だねえ。本当のことがわからないからウソが楽しいのに。まーずっとそこにいればいいよ。気が済むまでさ。あははははは。」

 

 

 むかつく旅人は最後まで画家をむかつかせる努力を忘れなかった。彼が去った後も画家は珍しく複雑に入り混じる感情を持て余し、絵を描いていた手を止めて、筆をパレットの上に放るように置いた。そしてキャンバスから離れて、芝生に寝転がる。
 ・・・・確かに自分が考えたことは、子どもの夢のように甘く幼い事柄かもしれない。学者が言った言葉にあてられて、深く考える必要のないことに対し深読みをしすぎている。まるで見当違いの考察のように、恥ずかしい言葉を彼に対し口走ってしまったのだろうか。あのむかつく旅人でなくても、誰もが自分に対し言うのかもしれない。きみはバカだなあ、と。
 しかしやはり曖昧模糊とした見えない風景に対する、疑いの感情がぬぐえないのも事実だった。―――バカだなあ、と言う人がいるなら、彼らはこれまで何を見てきたのだろう?それが当然、という自明の事実はどこからくるのだ?
 自分の目で見ていないのなら、自分の中の正しさに基づくものは何なのか。歴史の教科書?世界地図?分類表?学者たちの研究?政治家たちの言葉?周りの人がみんなそう言うから?それとも、王様が言った言葉なら、人は信じられるのだろうか?

 ・・・・・・・・そういえば、王様はどこにいるのだっただろう。先日自分の傍を通りかかった王女様がいるのだから、その父親である王様は当然いる。そもそも王がいないと国は成り立たないのだから。しかし、王様の顔は見たことがない。もちろん一般庶民の自分が会えるはずもないのだが。
 顔を見たこともない人間の存在を、その言葉を、自分たちはどうして心から信じることができるのだろう。
 人は、サンタさんの存在を否定しておきながら、王様の存在は信じている。しかしどちらも見たことがないのなら、王様とサンタさんは似たようなものではないのか。
 王様がいるはずの王城はどこにあるのだっただろう。
 この国の世界地図を、自分が最後に見たのはいつだっただろう。


 あの湖のむこうの陸地をずっと歩いていけば、そこに見知らぬ城下町があるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし。
 そのとき旅人の言葉に腹が立った感情も、知らないことについて気になるという思いも、時間が経つにつれて、画家はすっかり忘れてしまった。
 自分が世界地図を見たことがないという事実にも一切気がつくことなく忘れた。
 そもそも彼は、なぜ自分がこの川辺を選んで絵を描き始めたのか、そのきっかけさえも思い出せなくなった。
 思えば、いつの間にやら長らくこの川岸で絵を描いている気がする。
 始まりが思い出せない。
 しかし思い出す必要もないだろう。今さら関係のないことだ。ここで絵を描くということに、この場所の風景をただ描きたいと思ったからという理由以外に、何かあるだろうか。

 

 

 

 

 

「・・・・私は、謎の女。例え愛する人を前にしたとしても、自分でつくった仮面を脱ぎ捨てることもかなわない、想いを伝えることも許されない、そうして錆びた鎖に胸を縛られ苛まれながら生きる・・・・哀しい、夜の女なの。」

「そうかい。でもお願いだから、もう少しだけ顔を上げてくれないかな。」

 

 ぶつぶつと独り言を言いながら再び俯き加減になりつつある女性を、画家はうんざりしながら面を上げるように何度も催促する。自分で自分のことを夜の女と呼ぶわりに、彼女は晴れた昼間によく散歩している。
 森をよくさまよっている赤毛の女性に似顔絵を描いてほしいと頼まれた画家は、料金500スーケルでその求めに応じた。彼女はこの森でいつも見かける、人の目を避けては独り言を呟きつつ散歩をしている女性である。孤独な自分の身の上を嘆きながらも結局は孤独が好きであるらしく、荒廃した世の中で雨と硝煙にまみれながら生きているという空想の世界に浸りながら、毎日それなりに楽しく生きている(ように画家には見える)。
 その激しい孤独主義から滅多に他人と会話しようとしないため、彼女の方から話しかけられたときには画家も驚いた。謎の女と自分のことを言うだけあり、本当に身の上も職業もなにもかもが謎なのである。

 

「お願い・・・・。私の姿を、私がここにいたという証を、せめて残しておきたいの。私が消えてしまう前に・・・・。ああ、誰が見てくれなくてもいいの・・・・。やがて終わってゆく世界の中で、大魔王の冷たい爪によってこの身が引き裂かれる前に・・・・それでもここにたったひとり、愛する人の熱を求めて、悩み苦しむ私が身を焦がして生きていたという証がほしいから。・・・・ここで滅びゆく世界を見つめながら、ただ悲しみに頬を濡らし続けるのが私の役目。燃え盛る炎の中で無慈悲な大魔王に身を捧げることが、哀れな女のさだめ・・・・。ああ、そのときが来る前に、早く・・・・」

 

 これが彼女が自らの似顔絵を描いてほしいと頼んできた理由だった。彼女に一体どのような背景があるのかははたして全く謎である。
 確かに、最近になって恐怖の大魔王がこの地上にあらわれたらしく、世の中がどことなく不穏な空気を漂わせているようではある。確か魔王の名はスタンと言っただろうか。ずっとこの岸辺で過ごしていると、社会情勢にもついつい疎くなってしまうのであるが、ときおり森を行き過ぎる戦士や旅人たちは、みな口をそろえてスタンの恐ろしさについて語っている。
 それは目の前の彼女も例外ではない。

 

「あなたも聞いて。いま、復活した大魔王はおびただしい数のオバケを束ねて、世界を恐怖で覆いつくそうとしているわ。それを倒せる強い人はどこにいると思う?この世界を救ってくれる勇者は、きっといるはずよ・・・・。・・・・抱いた剣は自らにあたえる宿命。残される者の涙は、マントにかくして・・・・」

 

 妙に芸術的な悲愴感あふれるポエムを語り続ける彼女のこの世の終わりのような顔を、彼女が気に入るようできるだけ美しく見えるように描きながら、画家は大魔王スタンについて、とりとめもない考えをめぐらせる。

 

(魔王。魔王か・・・・。)

 

 自分は魔王なんて見たことがないけれど、きっとどこかにいるのだろう。実際にその姿を目撃したという人もいると聞いた。この世の誰もが言うのだから、本当にそいつは恐ろしい存在なのだろう。
 この森の中で自然と向き合っていると、この世が終末並の局面を迎えているとは思えないほど、世界の風景はあまりに穏やかなものだ。鳥の声も、風のそよぎもいつだって変わらないままで、恐ろしい気配を一切感じられない。道端の花は相変わらず風に揺れて気持ちよさそうだし、土の上で列をつくっててこてこと歩いているアリたちも、社会の事情などまるで気にも留めずに自分たちの生活を営んでいる。自分たち人間の社会の営みだって、熱心な働きアリたちの生活と大して変わらないだろうに。
 それでも確かに、この世界は絶望の危機に瀕しているのだと人は言う。自然と同じ生き方をしていてもなお、人間はそういった面倒な危機に振り回されるわけだ。
 あるいは大魔王が人間たちを襲う理由も、本当のところは自然の営みのようなものなのだろうか?つまり弱肉強食。魔王が世を滅ぼす行為は、魔王という生態上不可欠な習性で、生理的な生存のために行っているという可能性は考えられないだろうか。魔王もまた一介の生き物なのだろうし、自分たちがご飯を食べトイレに行き布団で寝るように、邪悪な考えを抱き村や町を滅ぼして世界を征服するのかもしれない。力差関係的に人の上に立つのが魔王ならば、人を食べる存在こそ魔王である。そうなのだとすると、食物連鎖は案外正常に動いているのかもしれない。
 つまり、この世を脅かしている騒動も、大きな自然の流れの一環なのだ。つまり世界は危なそうに見えて、実はいたって平和なのでは・・・・。
 ・・・・・・・・あれ。こんな妙に生物学的な発想をし始めたのは一体なぜだ。自分は画家なのに。

 

 しかし、魔王が世に現れてからすぐに、彼を倒すために立ち上がった勇者も現れたと聞く。
 勇者の名はロザリー。勇猛果敢な戦士でありながら女性であるらしい。そのことがかえって彼女の勇者としての凛々しさや清らかさを引き立てる一端となっているようで、近頃魔王の噂がどんどん恐ろしさを増していくにしたがい、彼女の評判も上がってきているようだ。
 その女勇者の姿を実は数度ほど見かけたことがある。サッソウと森の中を駆け抜けて、彼女の前に立ちふさがるオバケを、その手のレイピアで次々となぎ倒していた。その様子を、自分は川岸で腰かけてずっと眺めていた。なぜかオバケは彼女ばかり狙うらしい。勇者のさだめというヤツだろうか。さらに彼女は自分が座る横を無言でうろつき、宝箱を漁ったりしていた。その様子も傍からずっと眺めていた。それもまた勇者の仕事なのかもしれない。
 ちなみに人をからかうことが好きなあの旅人は、例にもれず彼女にもちょっかいをかけたらしいのだが、華麗に無視されたそうだ。そのことで旅人は珍しくスネていた。やはり大勇者は格が違う。

 

 

 やがて画家は謎の女の似顔絵を完成させた。

 椅子の上でもはやポーズをとることも忘れ、指の上の小鳥と仲良く話をしている女に、今完成した絵を渡す。

 

「ああ・・・・ありがとう。これで私は、消えなくてすむのね。人々の記憶から・・・・愛するあの人の心から。私がこの役割を終え、さだめられた運命を全うしても・・・・私はこの絵を残すの。私がいた場所に。血塗られた弾丸とともに私のカケラを残して、私は去るわ。そんな私を、どうかあなたはあわれまないで・・・・」

「あ、はい。」

「じゃあ、私は行くわ・・・・。もう時間もないから。・・・・・・・・ああ、止めないで!どうしても行かなくてはいけないの!危険だとわかっているわ。それでも、私はあなたまで失うわけにはいかないのよ!どうかわかって、私のこの悩ましさを・・・・。」

「いってらっしゃい。」

「ええ。行くわ。いつか必ず、あなたのもとに帰るから。この身が滅びても。・・・・この絵に込められた熱い想いを、私は決して忘れない。」

「ありがとうございます。またどうぞ。」

 

 絵を持って立ち去っていった女性の後ろ姿を橋の上で見送ったのち、画家は後片付けを始めた。その際彼女から受け取った銀貨5枚の500スーケルを、自分の財布の中にしまった。
 魔王と勇者。その2人が対決する日も近いと聞く。その舞台にはあの謎の女もいるのかもしれない。なんにしろ、世界の命運を賭けた戦いのときが迫っているのだ。・・・・世界は相変わらず平和に見えるのだが。
 その戦いに関して自分が気になることといえば、勇者が魔王を倒すことで自然の生態系が崩れないかどうかだけだ。魔王はあらゆる生物も問答無用で滅ぼすのかもしれないが、今のところこのウィルクの森の自然は問題なく守られている。魔王は案外、人には意地悪だが自然には優しいのかもしれない。そもそも魔王の配下であるオバケたちが暮らす豊かな森を、その王がわざわざ壊すとは思えない。オバケの生息場所が減ればオバケの生存も危ぶまれるわけで、オバケが減れば魔王の軍勢の兵力も落ちるはずなのだから。

 この世の最終局面が迫っているのだとしても、画家である自分がやることといえばひとつだ。
 絵を描くこと。どうせ自分にはそれだけしかできないし、したくない。
 大魔王に関する面倒な云々は、勇者とその脅威が恐ろしいと思う村人たちにのみまかせておけばよい。例え世界が滅びても、しがない画家ひとりがどうこうできるものではないのだ。世界が終わったら終わったらで、生き方はあるだろうと思う。そのとき自分が無事に生きているかどうかは謎だが。

 

 

 後片付けを済ませたのち、画家は再び描きかけの絵と向かい合う。

 

「ううむ、筆が走ってきたぞ。やっぱりいい場所を選ぶとちがうなぁ。」

 

 ひとりごちながらパレットから絵の具の色をとり、そして彼は目の前の風景を眺めた。目の前の川岸の風景は、まるで水彩画のようにやさしく、油彩画のように色鮮やかで、かわいらしいクレヨンで描いたように楽しく、繊細な色鉛筆で塗られたように美しい。この世界は見方によってその色を変える。この色を、できるならより美しくキャンバスに描き留めたいと彼は思う。世界が終わる前に。
 
しかしながら、世界が終わろうとあるいは関係ないのかもしれない。
 なにが起きたとしても、それでも自分はこの場所に座り続けるのだろう。とくに危険がないのであれば。

 魔王によってこの美しい風景が失われなければ、自分としてはそれでかまわないのだ。そもそも「世界の終わり」ってなんだ?魔王は人間にとっては脅威でも、オバケたちにとってはそうではない。ならば人間が口にする、恐怖の大魔王の手でもたらされる破滅・・・・「世界の終わり」とは、自分たち人間が滅びることか?人間たちが絶望するような暗黒社会になるということか?それとも、この世界の風景が全部燃えて失われることか?この“美しく、奇妙で、驚異に満ちた世界”が、そのようではなくなるということか。
 そんな「世界の終わり」が、いつか本当に来るのかもしれない。
 
そのときこの「世界」は、いったいどのような姿になっているだろう。
 終わってしまったあとの「世界」の風景を描いてみるのも、あるいは良いかもしれない・・・・。

 

 

 

 

 ふと手の中に硬く冷たい手触りがして、画家はなにげなく右手をひらいた。
 ・・・・・・・・いつの間にか、手元にお金がおさまっていた。

 

「・・・・え?」

 

 え。え。・・・・・・・・・・・・えっ?

 画家の手に握られていたのは、銀貨5枚だった。500スーケルある。
 突然現れたように見えるお金に、画家はひたすらに動揺した。なぜ自分はお金を今握りしめているのだろう。さっきの女性から受け取ったお金を、財布に入れたつもりになっていて実は入れ忘れていたのだろうか。あるいは自分で今財布から出したのか。・・・・ええと、何のために?
 恐らく自分で入れ忘れていたのだろう。覚えはないが、どう見てもそうに違いない。そう思った画家はもう一度財布の中にそれらの小銭をしまおうとして、財布をひらいてぎょっとした。
 ・・・・明らかに小銭が増えているのだ。先ほどしまった500スーケルは、確かに財布の中に入っていた。そして手元にはさらに増えた500スーケル。
 つまりこれは、正真正銘の、まったく見覚えのない新しいお金・・・・。
 画家は急に背筋が寒くなり、辺りを見回した。鳥のさえずりと水の音のみが響く静かな川辺には、当然自分以外誰もおらず、オバケがひそんでいる気配もしない。不思議なちからを持つオバケならばこのような嬉しいようで不気味なマネもできるかもしれないが、その影も見当たらなかった。不意に、夜寝ている間に自分の抜けた歯を枕の下に置いておくと、金貨と交換してくれる妖精の昔話を思い出した。いやいやでも妖精の仕業にしてはお金を手に直接つっこむなど大胆にもほどがあるし、そもそもいったい自分が何をした。そもそも子どもでもないのに妖精を信じたら本当にお花畑の住人になってしまう。いや別になってもいいのだが。しかし現実的大人的に考えて、目に見える人が周辺にいない以上、これはオバケの仕業であるとしか考える他はない。
 いったいなぜ、オバケがお金を?

 ふと、画家はなぜか真新しいキャンバスをイーゼルに置かなければいけないような気になった。
 500スーケルは、先ほど謎の女に払ってもらった似顔絵料と同じ金額である。ならば自分は今、似顔絵を描かなければいけないような気がした。誰かの顔を。
 イーゼルに立てかけた白いキャンバスの前に、画家は座る。自分の向かいにはモデルに座ってもらうための小さな椅子を置いたままにしてある。その椅子の上を、画家は暫くの間じっと見つめた。
 明らかに誰もいない。椅子の上は透き通ったままだ。
 でも・・・・。

 

「・・・・・・・・誰か、そこにいるのかい?」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ・・・・つい、冗談みたいなセリフを口走ってしまった。自分は別に幽霊が視える人というわけではないのに。
 目の前には人はいない、オバケもいるようには見えない。ましてや返事などあるはずがなかった。

 あるいは気がつかないうちに、もうどこかに行ってしまったのだろうか。しかしならば何のためのお金だ。ではやはり、最初からここには誰もいなかったのだろうか。小銭だって自分が財布に入れ忘れただけ。・・・・本当にそれだけ?
 見えない色。透明な色。自分は、本当に見えているのだろうか?見落としはないのだろうか?意識していないだけで・・・・・・・・実は目の前にある色を、自分は見逃してしまっているのではないか。
 なぜかそのような不安に駆られた。手の中に覚えのない500スーケルがあるということが、明らかに人為的としか思えない、似顔絵料とぴったり同じ金額が現れたということが、自分の認識に対する不安を煽った。

 画家は暫し誰も座っていない椅子を眺めていたが、それでもやはりなにも、誰も見えない。諦めてキャンバスの前から立ち上がった。そしてなぜかいきなり現れた小銭をしまった自分の財布を、鞄に入れに向かう。

 

 しかし、自分の鞄や道具入れの傍らに寝かせて置いておいた別のキャンバスを見て、画家はまた不思議に思った。
 これは先ほど、謎の女に似顔絵を頼まれる前に描いていた、別の川辺の風景画だ。現在風に当てて乾かしている最中で、我ながらうまく描けたと思っている。その油絵の具で塗られた色彩豊かな風景の中に、いつの間にか自分で描いた覚えのないものが描き込まれていたのである。
 子どものラクガキに近い人間がなぜかそこにいた。どう見ても自分の絵ではない。知らないうちに誰かが、自分が用意した絵の具をこっそり拝借したようにしか思えなかった。決して上手とはいえないが、しかし、心がこもっているように感じられる、素朴で温かみのある絵だ。まるで見知った風景にひっそりと紛れ込んだ客人のように、しかし鮮やかに映える色をもってそこにいた。
 自分が描いた風景の中に描かれているのは、ひとりの男の子のように見えた。短い髪は赤く、両目は緑色に塗られている。そして奇妙なのは、その少年の背後には真っ黒な影のような生き物が描かれていることだ。少年の足元の影が長く伸びて、顔と手を2本つけて笑っている。オバケのようにも見えるが、ときに牙をむいて襲ってくるオバケよりも、ずっとかわいらしく微笑ましい。一人と一匹がよりそうように並んでいる姿は、仲がよさげに見えた。
 もちろん彼らの姿に画家は見覚えがない。いったいこれは何の絵だろう?・・・・いつ、誰が描いたのだろう。自分で考えた空想のキャラクターではあるまいし。この子らはいったい誰なんだ?


 一人の男の子と、一匹の黒いカゲ。
 男の子はこちらを見ているように見える。
 少年の正面を―――自分を見つめる素朴な瞳は、何かを言いたげにしている。ささやかなラクガキでも、なにかメッセージが伝わってくるような、そのような顔をしていると画家には感じられた。
 しかし彼には、その声なき声を聞きとることができなかった。

 

 

 

 

 彼は、キャンバスに描かれたその愛らしい顔をした黒いカゲこそが、今この世を脅かしている大魔王の本当の姿であることを知らない。
 見慣れた風景の中に描かれた、地味な少年と、邪悪でもなんでもない魔王の絵。
 キャンバスに描かれた真実の世界。
 見えないものを見えるようにするための、透明な色が色鮮やかに映るように描き出すための鏡。
 2人の姿を映した風景は、ただ必死に自らの主張を伝えようとしていた。

 

―――白いキャンバスよ。どうかこの世界の偽りを正してくれ。

誰か、ありもしないウソのむこうに隠れてしまった真実を写して。

 

 

 

少年は絵筆を、ひそかに画家のイーゼルの傍らの、水で満たされたバケツの中に戻した。













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