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恍惚としているなにかを見ちゃった人は放置して、マギー・ロバート・デイル・トビーは研究所の前に立った。町中の歯車を全てここで動かし管理しているため、この建物はマドリルに建つ建物の中では1、2位を争うくらい大きい。しかし普段は誰も見向きしない場所だ。いつもならば表情の暗い研究員が扉を塞いでいたのだが、ある時から彼はそれをサボるようになり、今は誰も見張らなくなってしまっていたのだ。おかげでまんまと歯車を止められてしまったわけである。 「あたいとロバートは正面から行くから。デイルとトビーは危ないから、犯人が逃げないように裏口を固めるんだよ!」 「イエス・サーッ!」「でしゅ!」 デイルとトビーはマギーの指令に勢いよく頷き、指示通り走って裏口へ回った。 「・・・・もしかして、ルルカちゃんの飼い主さん!?」 そう、目の前で言い争われているミスマドリルの異名を持つ彼女は、今日マダラネコ団が探し回ったネコの飼い主その人。隣の男は、その彼女の恋人だった。 「もしかしてマギー、彼女と知り合いなのかい?この街で一番綺麗な女性に選ばれたミスマドリルと。」 「え、うんまあ・・・・いやでも、まさかこの人がミスマドリルだったなんて・・・・。」 マギーは1階に住んでいるため、2階に住むミスマドリルの存在は知っていたが顔まではよく知らなかった。だから今日ネコ探しを依頼されたときも、彼女の正体にマギーは全く気づくことができなかったのだ。先ほどはあまりの涙顔のせいでわからなかったが、よく見れば確かに彼女は、ブロンドの美しい髪を持ち赤いキャミソールがよく似合う線の細いスタイルをしていて、なおかつ艶かしい顔つきでかなりの美人だった。女の子なら誰もが憧れるような華やかな化粧をしていて、大人びた雰囲気を醸し出している。彼女がミス・マドリルに選ばれるのも、わかる気がした。 「あ、あなたは・・・・ルルカを見つけてくれたお嬢さん!なぜこんなところに!?」 「あたいたちは止まった歯車とあなたを助けに来たんだよっ。」 マギーはロバートと顔を見合わせ、彼女に説明をしながら辺りを見回した。 「・・・・いや、お嬢さんたちは下がっていてくれ。ボクがこの男を止めなければならないんだ。」 「そう。これは、わたしたちが決着をつけなければならないことなの・・・・」 「あなたたちを巻き込みたくない」と、その表情から真っ直ぐに伝わってくる。その様子に、思わずマギーは口を噤んだ。 「おお、ミスマドリル!僕は来る日も来る日もあなたのことばかりを考えているというのに・・・何故この僕の純で美しい真心がわからない?何故だ・・・・何故だ何故だ。どうしてあなたはこの僕の気持ちに応えてくれないんだ?」 「わたしには・・・・運命の人がいるのよ。ごめんなさい・・・・。」 「認めない!絶対に認めないぞ僕は!このスーパー美形な僕よりもそこのコレステロールたっぷりでつんつんヘアーな男の方がいいなんて、絶対絶対ぜーったい、認めない!おい、そこのとんがり野郎!ミスマドリルに指一本触れてみろ、このレバーに一瞬で物を固めることができる魔法の薬『瞬間接着剤』をたっぷりかけて一生歯車を動かせないようにしてやるぞ!」 そうわかりやすく説明する(本人にはそのような自覚はないのだろうが)色男の手には、何か白い液体が詰め込まれた奇妙な一升瓶が抱えられている。 「ミスマドリルを僕に渡すんだ!そうしたら町と研究所は助けてやる!」 マギーとロバートは、呆れて声も出なかった。効果さえも真実かどうかがわからない物で脅すくらいなら、歯車の管理レバーを武器や魔法で壊してしまう方が効果的だったのではないのか。自称魔王のように研究所破壊までしなくてもレバーさえ破壊すれば、マドリルの住人たちをずっとこの町の中に閉じ込めることができてしまう。つまり変なアイテムを用意するよりも簡単に、町の人間を人質にとることができるのだ。それを考えると、この男は見た目の割に頭が悪いようである。しかしそんなことをされたら、それこそ正にマドリルに語り継がれる大悪党になってしまうため、そんなことを思いつかれなくて本当によかったと思う。 「・・・・君には悪いと思うよ。でも・・・・ボクのこの想いは変えられないんだ。ボクは彼女が好きだ。この人こそが、ボクの永遠のスイート・ハニー。永遠に離しはしない。ましてや、君のような男になんか渡さないよ。」 「ダーリン・・・・!」 「どんなことがあっても・・・・例えこの町の歯車が一生止まってしまっても、ボクは君を愛すよ。」 色男の脅しに動じることなく、彼はミスマドリルを抱きしめた。とてつもなくクサかった。しかし一生歯車が止まってよいのはミスマドリルたちバカップルだけで、他の住民は真剣に困るのだが。 「ごめんなさい・・・・あなたはずっとわたしを想っていてくれたのね。なんて罪深い女だと、わたしもわたしが憎いわ。・・・・でも、わたしの愛するべき人は彼だけなの。この人こそが永遠のスイート・ダーリン・・・・わたしの理想の恋人。あなたみたいな人は好みじゃないの・・・・ごめんなさい。」 「・・・・・・・・・・・・!!!」 彼らの言葉と行動に、色男も呆然とした。そして無意識に、とんがり野郎とミスマドリルがお互いを愛する心に、自分の想いはかなわないことを悟ってしまった。悟ってしまったのだ。 「あ・・・・やめろっ!」 妄想から覚めたロバートが、ダッシュで色男に掴みかかった。 「なっ・・・・」 猪のように飛び掛ったロバートに、接着剤を手にした色男は動揺して思わず接着剤の瓶を構えた。 「ロバートっ!」 マギーの叫ぶ声が聞こえたが、ロバートは止めようとしなかった。 ―――しかし。 「はいはいストーップ、君たちいいかげん落ち着きたまえ!―――パラリラ!」 詠唱が研究所内に響き渡った瞬間、ロバートと色男の体が突然黄色い光に包まれる。 「ここは研究所だから、この場でケンカするのはできればやめてほしいんだけどなぁ。」 高度な麻痺の魔法を使ったのは、今のマドリル内では知らない者はいない怪人オバケ学者、キスリングだった。確か彼は、マダラネコ団の新入りさんの友達でもある。 「私の汗と涙の研究の成果である超強力瞬間接着剤を使ってくれるのはすごーく嬉しいけどね。実はこれ、失敗作品なんだよ。ほんと、危ないところだったよ・・・・それは空気中の水分に反応し瞬間的に硬化する物質と硬化を促進する物質を配合しさらに耐衝撃性を兼ね備え接着を永久持続させることができることができさらにさらに液体のまま出すだけでも瞬きする間に石のような硬さになるという実に優れ過ぎた能力を秘めているのだが物を接着させようとする前に出したその瞬間に固まってしまうから意味が無いんだよねー。そのせいで普通の建築に使おうとしても役に立たなくて・・・・つまり全く使えないものでね、未知だが危険なものとして、この研究所の物置に厳重に封印しておいたのだが・・・・いやいや、まさか勝手に盗んで使おうとするとは。あと一歩駆けつけるのが遅れていたら、永遠に歯車が止まったまま・・・・なんてこともあったかもね!」 「・・・・そんなのを作って一体何の意味があったの・・・・。」 「いやーほんとはただ、オバケちゃんを捕まえたり食べさせたりするために作っていただけなんだけどね。とにかく、それは人々を困らせるためにあるんじゃあないのだよ!研究所の物を勝手に盗み、乗っ取り、ましてや町の運営を邪魔するなんて、君は何を考えているのだね。こんな大騒ぎを引き起こした君は勇者たちに捕まってしまうよ?いいのかい?しかも女の人を無理矢理自分の物にしようと脅迫までして・・・・いたーくてつらーい罰を受けるかもねぇ・・・・ふっふっふ・・・・。」 キスリングが怪しげに笑って言った言葉は、妙に現実味があって恐怖がふつふつとわき出てくる。色男は背筋がぞくり、として自分がしていることの悪さを今更になって思い出した。 「うわわ・・・・!」 「もう逃げられないよ、犯人さん。裏口もしっかりガードさせてるから、逃げ場なんてないよ!」 「さあ、街中の歯車を元に戻すんだ!」 ガタガタと子供相手に色男が震えていた。おそらく、これから自分の身に起こるかもしれない痛くて辛い罰を想像しているのだろう。その姿はネコに震えるネズミのようでとても情けない。 「きゃっ!」 「マギー!?って、お前っ!」 いつの間に麻痺を回復していたのだろう。もしかしたら、彼も快活の石を持っていたのかもしれない。さすらいの商人が仕入れたという、今マドリルで話題の珍しいアイテムだから。 「あっ!逃げちゃう!」 「こら・・・・待て悪人め!くそ、追いかけよう!」 「うん!トビー、デイル、行くよっ!」 その言葉にガードしていた裏口の扉からトビーとデイルが飛び出してきて、再び4人は彼を追いかけて走り出した。 「「「まて―――っ!!」」」「でしゅ。」 「く、来るなーっ!!捕まってたまるかっ!」 逃げ出した色男を追いかけて、4人がマドリル市街を爆走する。 「はー、はー・・・・あれっ、な、なんで・・・・!?」 この町のゲートは、普段は人が近づくと自動で巨大な歯車が回り、外に出るためのアーチを作り出す仕組みになっている。人通りが多く、尚且つ歯車が象徴になっているこの町の看板となるのが、このゲートだった。この厚い鉄の歯車はオバケの一匹も通さず、マドリルの安全を守るためには必須のゲートだ。しかしそのために、町の歯車ひとつの調子が狂うとこの町から出られなくなってしまうのが欠点なのだが、少なくともマギーは今まで暮らしてきた中で、ゲートの歯車が止まるなんてことは無かった。唯一あるといえば、ギアメンテナンスの時のみである。それ以外は常に稼動していて、たくさんの人を行き来させている。 「ふふーん、バカじゃないの?あんたが街中の歯車を止めたんだから、今外に出れるわけないじゃーん。」 彼の背後から、さも嬉しそうにマギーが踊りながら近づいてきた。 「ひ・・・・!」 「さあ、今度こそ逃げられないからね。また突き飛ばして逃げようっていっても無理だよ。この2階は既に完全に封鎖されていて、もうどこにも逃げ場はないんだから!」 「マドリル中の歯車を止めて街を混乱に陥れ、この街の美女ミスマドリルを奪おうとキョーハクした罪!これは正義のマダラネコ団が絶対許さないぜ!観念しろ!」 「としがたはんざいでしゅ。きょーはくざいでしゅ。とってもふかーいつみなのでしゅ。」 「自分の罪を認め、このヒゲモグラ団長ロバート・クリストフ3世の前に跪くんだ。そうすれば命だけは許してやる!」 子供たち4人の背後の道の先には、事件の行く末を町の人間たちが観察していた。その中にはミスマドリルやキスリング、面白そうに見ているウワサちゃん、先ほどマギーが声をかけた恍惚としている男も混じっている。普通の大人なら子供にこのようなことはさせないはずだが、目の前の子供たちは、今やマドリルで知らない者はいないマダラネコ団である。誰もマギーたちの邪魔をせず、空気を読んで眺めていた。背後からの視線を知ってか知らずか、カッコつけて口々に台詞を言っていく彼らは、そして、じりじりと間を詰めてゆく。 「あ・・・・、・・・・そうだ、そうだよな・・・・。」 突然打って変わった彼の顔色に、一瞬4人は怯んで瞬きした。 「あはは、こんな情けない僕に、ミスマドリルが振り向くはずなんてないじゃないか。今、やっとわかったよ・・・・」 「・・・・!」 その言葉に、ロバートはびくりと体を震わせた。 「・・・・」 マギーたちが見ている中、ロバートは初めて素の自分を見せた。 「まだ、あなたにだってチャンスがありますよ。」 「えっ・・・・?」 色男は、はっとしてロバートを見た。 「今回はダメでも・・・・もう一度、恋をすればいいんです。あなたは僕とは違って、顔がすごくカッコいいんですから。それに、今回の事件で学んだでしょ?自分の想いは、ちゃんと相手に伝えないとダメなんだって。そのことを忘れなければ、きっと新たな出会いにも廻り合えますよ。もっと自分を信じてください、僕も応援しますから。」 ロバートはにこりと笑って、彼に言った。 「・・・・そうだね。君の言うとおりだ。ありがとう、ロバート君。少し元気が出たよ。」 「いえ・・・・僕もあなたと同じでしたから・・・・。」 「そうか・・・・君は強いんだね。うん、僕、勇者協同組合に自首するよ。きっちり罰を受けて、また新しい自分に生まれ変わることにする。人生はまだまだ長いし、世界も広いから・・・・僕ももう一度、本当に大切だと思える人を見つけだすことにしよう。」 ロバートと色男はがしっと力強く握手し、顔を合わせて頷いた。これはお互いの決意を意味していた。ロバートはマギーを、男はまだ見ぬ新たな恋人を、あのミスマドリルの恋人のように一途に愛することを誓って。 だが。まだ一人、落着していない者がいる。 ―――クックック・・・・ 「「「「っ!?」」」」 「な、なんだ、今の声は!?」 どこからか、誰かの邪悪な笑い声が聞こえた。 ―――マドリル内の歯車を全て止め、しかも人々に恐怖と混乱を与え、ついでに美しい女を奪おうと脅迫しただとぅ・・・・? 「誰・・・・!?」 ―――ちょっと黙って聞いていれば・・・・ずいぶんととんでもないことをしてくれたものだな・・・・ 声はなお続く。 ―――元々余が行うはずだったことを、代わりに実行するとはな・・・・!しかもとてつもなく悪そうなことを!たかが・・・・ だんだん声が大きくなってきた。 マギーが脳内で名前を思い出すよりも早く、その黒い巨大な影が歯車の向こう側から勢いよく飛び出してきた。 「クソゴミごときチビ人間があああああーっ!!ゆるっせぇぇぇええん!!!」 「ひゃぁぁあっ!!」「うわぁあーっ!?」 ―――ドゴッ!! 悪の魔王のくせにあまり恐れられていないヘンテコな影、スタンが歯車の隔てを通り抜けてスマッシュ魔王をしてきた。 研究所のレバーが上げられ、マドリル内の歯車が再び動き出した。 「あーそれにしても、本当に久しぶりだね新入りさん!」 「すたんとまるれいんおねーちゃんもげんきでしゅか?」 「うん。マギーたちも元気でよかった・・・・」 「余はめちゃくちゃフキゲンだがな、くそっ!くそっ!」 マルレインが答えた横で、スタンがルカの影を借りてぶつぶつと呟いていた。魔王である自分よりも先にマドリルで悪いことをしたあの男のことを未だに許せないでいるらしい。彼は苛立ってルカのお菓子を勝手に奪い取り、実体を取り戻して食べれるようになった口の中へまるごと放り込んだ。ルカは一瞬ショックを受けたような顔になり、そして今度は怒ってスタンに文句を言っている。 「ロバートとさっきの男の人ははどうしたの?」 「あー、ロバートならオイラたちが家まで運んで、あの犯人は役人たちに任せたよ。これで一件落着って感じかな?ふー、本当に苦労したよ全く!面白かったけどな!」 「くそ、くそ・・・・そうやってキサマらを困らせるのは余の役目だったというのに・・・・余だってこの街の人間どもの絶望に歪む顔を見たかったわ・・・・!あーくそ・・・・あの男、次見つけたら絶対八つ裂きにしてくれる・・・・!」 そう嘆くスタンは、グチグチグチグチとスネて魔王としての威厳が無い。普通の人間に悪の手柄を取られたのがよっぽどショックだったのだろう。そうして彼はすっかり落ち込んだようにルカの影に引っ込んでしまった。 「ところで2人はどこ行ってたの?ルーミルのほうから来るなんて珍しいね。」 「えっとね・・・ブロックさんのサーカスを観に行っていたの。前にテネル村に来たときのことが忘れられなくて・・・・つい遠出してまた観に行って。・・・・ふふ、とっても楽しかった!お友達にも会えたし・・・・」 マルレインがサーカスのことを口にすると、デイルとトビーもその話題に反応した。 「あー、最近なんかサーカスにダンサーやピエロの他にも新しい人が入ったって聞いたぞ?カッコいい奇術師とか、カワイイ歌姫とかさー。いいなー、オイラもちょっと観てみたいぜ・・・・」 「とびーもちょっとみてみたいでしゅ。でもおこづかいがたりないでしゅ。」 「・・・・でも帰りはワプワプ島に行くストーンサークルが調子悪くて使えなかったから、歩いてマドリルまで来たんだ。でも入り口が閉まったまま開かなくて・・・・立ち往生してたところでマギーたちの声が聞こえてきてね・・・・。」 「へぇ、それは大変だったねー。こっちも大変だったけど。」 「うん。まさか街でそんな大変なことが起きてたなんて・・・・ほんとに驚いたよ・・・・。ふぅ。」 ルカがため息をついた。 「ルカ・・・・どうしたの?」 「・・・・・・・・ボク・・・・。・・・・本当によかったのかな。君のおとーさんを倒して、分類を壊してしまって・・・・。」 「・・・・!」 もしかしたら、定義者によって「善人」と「悪人」をきっちり分類されていたほうが、まだ世界の安全が保障されていたのではないだろうか。悪いことをするのは魔王やオバケのみで、他の人間たちはただ成す術もなくウロウロしている。それを勇者の存在が助ける。そういう風に定義者によって世界が管理されていれば、悪いことをしないという分類をかけられた人間たちは悪いことをしなかっただろう。もしかしたら「分類」にまだ踊らされていた方が、まだ世界の人々の身の安全を確保できていたのかもしれない。 「・・・・たぶん、これでいいの。・・・・分類のせいで本当に自分がしたいって思ってることをできずにいるよりも・・・・自分の想いをちゃんと形にして実行できるほうが、嬉しいに決まってるもの。それにみんな、やって良いことと悪いことの区別ぐらいついてる。・・・・だから悪人がこれからたくさん増える、っていう考え方は間違ってるわ。あのミスマドリルさんに恋してた人だって、分類があったらずっとあのまま想いを伝えられずに終わっていたかもしれないし・・・・・・・・人々に迷惑をかける形になってしまっても、それが彼の最終手段だったのなら・・・・それは仕方ないんじゃないかな。」 「それでいいのかなぁ・・・・?」 「うん、自分の「分類」のせいで、自分がしたいと思っていたことができなくなるのは、誰だって辛いものね。それに・・・・もともと分類の力に囚われる前のみんなは、何が良いことで何が悪いことか、全部他人ではない自分の力で分類していたの。世界は・・・・本来の形を取り戻したのよ。あと・・・・ルカは今になって、世界の分類を壊したことを後悔してるみたいだけど・・・・分類が壊れるのはきっと、運命だったんじゃないかな・・・・」 「運命?」 思いもよらぬ言葉に、ルカは目をぱちくりと瞬きさせた。 「そう。ずっと昔からポラックやホプキンスの行動とかで少しずつ世界が変わっていって・・・・分類の力が効かないルカがこの世界に現れたのも、きっと、そうやってこの世界が変わったおかげだと思うの。・・・・なににしろ、きっとこの世界の分類はいつか壊れる運命だったのかも・・・・それに・・・・」 ルカの傍にマルレインが寄ってきた。 「・・・・わたしはそういうの関係なく、今ルカとこうして一緒にいられるのが、なによりも幸せよ!・・・・きっとミスマドリルさんも同じ気持ちなんだと思うわ。・・・・パパには悪いかもしれないけど・・・・これが分類を壊した結果なら、わたしはこれを喜んで受け入れたいな・・・・。・・・・お前もそう思うじゃろう、ルカ?」 マルレインはにっこり笑って、ぽかんとするルカの手を握って引っぱった。 街には何事も無かったかのように喧騒が響いている。 |